【南】202108

ページ数：430ページ
ジャンル：長編小説
リゾート気分：★
読了しやすさ：★★

＜あらすじ＞
デザイン会社に勤める男は、失恋と激務でうつを発症した。
ある女は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。
死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。
苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。

＜スタッフおすすめポイント＞
夏！リゾート！
だからと言って楽しい思い出ばかりとは限りません。
心の夏バテを少し感じる方には、今月こちらのリゾートがオススメ。

自殺願望を持つ3人が、ドライブで鹿児島の海を目指す。

一言で表現するとまるで救いようのないストーリーなのですが、ドライブに至るまでに、世代・性別・生まれた境遇もバラバラな3名それぞれがドラマを秘めています。「死」を意識する瞬間、張り詰めた糸が切れるきっかけは、人によってこうも違うということを教えてくれる一作。また、どこかしらに、自分の弱さや忘れていた過去を重ね合わせる部分が人それぞれある気がしました。

あえて自分の弱さに向き合いテンションを下げる必要はありませんが、立ち止まり内省が必要な時、こんな静かな夏の本があってもいいかなと思うのです。

リゾート要素は少ないです。
正直、アペロにも向かないかもしれません。

ただこの作品や作家さんを知っていると、いつか行き詰まった自分を、誰かを、そっと楽にしてあげることができるような気がしました。絶望の中に、希望を感じる作品です。

推薦文寄稿：Chapters bookstore 書店主 森本萌乃