
なぎさホテル
以下、チャプターズでご紹介時の推薦文です。
ページ数:253ページ
ジャンル:連続短編小説
読みやすさ:★★
<あらすじ>
1978年冬、若者は東京駅構内にいた。足元のトランクには数枚の衣類、胸のポケットにはわずかな金しかなかった。入社した広告代理店も一年半足らずで馘首され、酒やギャンブルに身を置いた末に、東京での暮らしをあきらめていた。生家のある故郷に帰ることもできない。
そんな若者が、あてもなく立ち寄った逗子の海岸に建つそのホテルで温かく迎え入れられる。
「いいんですよ。部屋代なんていつだって、ある時に支払ってくれれば」
見ず知らずの自分を、家族のように受け入れてくれるホテルの支配人や副支配人、従業員たち。若者はそれからホテルで暮らした七年余りの日々の中で、大人の男への道を歩き出す――。
<おすすめポイント>
今は無き、語り継がれし幻のホテル。
穏やかな支配人が温かく出迎えてくれる、海風の心地よいお宿はこちらです。
2人の娘と妻を捨て、多額の借金を抱えた自暴自棄な主人公。
彼が偶然立ち寄ったホテルに居候するところから本作は始まります。
"持って行き場のない怒りをかかえて、うろうろと街を徘徊し、人を妬み、裏切り、失望し、大勢の人たちに迷惑をかけて生きていた。"(本文より引用)
冒頭から、主人公がもう既に一つの大作を終えたかように憔悴しきっている様子。ある種アフターストーリーのような静けさで始まるこの小説はどこへ向かっていくのだろうと読み進めると、再生の軌跡でした。
本作は、つい最近ご逝去された大物作家の自伝的小説のため、実話をベースに描かれています。主人公をしばらくの間無銭で宿泊させるホテル支配人との出会いに、「こんな優しい人との出会い人生にある?!」と声が出そうになりますが、そういう巡り合わせも含めて作家という職業なのかなと感じます。
美しく繊細な、夏の子守唄のような作品。テンション控えめなので、夏の暑さに参っている方はぜひこちらをお選びください。
そして、できることならぜひ海の潮風を感じながら読んで頂きたい作品です。
推薦文寄稿:Chapters bookstore 書店主 森本萌乃