ページ数:352ページジャンル:長編小説読了しやすさ:★★★
「国」や「言語」の境界が危うくなった現代を照射する、新たな代表作!
留学中に故郷(日本)が消滅してしまった女性は、ヨーロッパ大陸で生き抜くため、独自の言語をつくり出した。彼女はテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年と出会う。2人は、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出る──。
誰もが移民になりえる時代に、言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。
<おすすめポイント>もし、日本語を話せる人がいなくなってしまったら?
そんな突飛な問いに向き合う本作。日頃意識したことがなくとも、言語を否定されるとは、すなわち丸ごと自分のアイデンティティを見失う脆さに繋がるのかと、冒頭から胸が苦しくなります。移民となり“帰る場所”を無くした喪失感や、同じ言語だから通じるジョークを分かち合えなかったり、本来の言葉の意味を確認しようがなくなってしまったことで感じる孤独感に、思わず目を背けたくなるかもしれません。
ここまで読むと暗い作品に思えるのですが、実は言葉をテーマにした作品だからこその「言葉遊び」というユーモアにも溢れた一作なのです。ハウマッチみたいな響きのお寿司、移民二世のかぐや姫、饅頭ならぬマジパンチョコレート…意味不明な面白さとつかみどころのない世界観がクセになり、大変読み進めやすいです。
日本が亡くなった近未来を背景に進む旅物語は、デンマークから始まりドイツ・インド・日本・グリーンランドへと広がります。
本作の多種多様な言語・文化に触れる旅を通じて、日本語の持つ美しさを改めて一緒に噛み締めたいと思わせてくれる、本好きには特に堪らない読後感です。
まだまだ続く暑い夏、お家で静かに内省したい気分にぴったり。
推薦文寄稿:Chapters bookstore スタッフ 脇田七海
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